杉山信二
危険な空石積みとモルダム工法の必要性
更新日:2022年9月12日
古くから伝わる石積みの技術は素晴らしいものです。
その技術の粋を集めたものがお城の石垣ではないでしょうか。
築造から数百年の年月を経過しても多くの石垣が残っているのですから驚くばかりです。

石積みは色々な積み方があるのですが、基本的な構造を見ると上の模式図の様に大きな積石の隙間に飼石(詰める場所によって友飼石、迫飼石、胴飼石などの名称があります)が詰められ、背面には裏込め石が詰め込まれています。
お城の石垣はこの裏込め石の幅がかなり広い範囲(数メートル規模)に設置されています。この広い範囲の裏込め石が石垣には最も重要だとも言われているほどに大切な部分となるようです。
また、積石の胴長(控え)と呼ばれる奥行の長さが長い場合は飼石がクサビの様に食い込むため背面からの土圧が掛かっても耐えられる構造になっています。

一般住宅などの土留め壁として使用されている石積みを見てみると裏込め石は良くても数十センチの範囲が殆どであり、全く入っていない状態のものも多くあるのが現実です。
また積石も小さく胴長も短いものが殆どであり、飼石もあまり入っていない石積みも珍しくありません。
お城のような石垣を築造する費用はかなり高額になりますので簡単な造りで安価となる石積みが使用されるのは当然のことだと思います。

お城の石垣と一般宅地の石積みは別物と考えて良いでしょう。
実際に現在の擁壁の基準では空石積みは「危険な擁壁」の部類に入っているのです。
次に不安定要素のある空石積みについて考えてみたいと思います。

例えば間知石として加工された積石でも合端が広い場合と狭い場合では噛み合いや安定性が全く変わります。狭い合端の積石で施工されたものは不安定な石積みになると言えるでしょう。

写真の様に合端部分が殆どない状態(毛抜き合端という)では、積石がずれてしまうことが多く、表面から見た合端の形がきれいでない場合(笑い合端)では更に不安定な石積みとなります。


工事費を安くするために積石の加工に時間や手間を掛けなかった場合、「毛抜き合端」や「笑い合端」となることが多いのですが、それを補う方法として目地にモルタルを塗っている現場を多く見かけます。しかし、モルタルが劣化して剥がれると直ぐに危険な状態となってしまい地震などの外的要因等よってせり出したり膨らんだりする変状が現れてきます。

積石の胴長(控え)が短い場合も安定しない石積みになってしまいます。
この場合、飼石が積石と積石の間の適切位置に入らないため噛み合うことが出来なくなるからです。
実際には飼石が少ないことも多くあります。胴長が短く飼石が少ない場合では非常に不安定な状態ということになります。
そのような状態では背面から土圧が掛かった場合に崩壊してしまう可能性は高いと言えるでしょう。

空石積みは高さが高くなると危険性も高くなります。
お城の石垣のように大きな積石と広い範囲の裏込め石であるならば高さにも耐えられますが、小さな積石で飼石や裏込め石も少ない状態では上部に積み上げられた積石の重さに耐えられなくなるからです。

重さに耐えられなくなると圧密されて押し出されてしまいます。

風化する積石なら後に崩壊してしまうでしょう。
写真の現場の石積みが空石積みではなく練積みの石積みであれば崩壊していなかったかもしれません。
空石積みと比較すると練石積みは胴込コンクリート等が入っていることで石同士の接地面積(耐圧面積)が広くなることなどから大きな荷重に耐えられるのです。

空石積みに対してモルダム工法が効果的なのは、形状が悪い積石同士でも接着して一枚岩のようにできること。また、注入された専用充填剤が硬化すると高い耐圧性能を有するため飼石の代わりになる(クサビの様に詰め込んだ状態)ことによって石積みの強度は格段に上がること。そして重要な背面の裏込め石部分(透水層となっている)も守ることなどです。
つまりモルダム工法は、危険な空石積みも排水機能が確保された安全な一枚岩のような練石積みにできる工法です。
今後発生する空石積みの災害を最小限に出来る最も有効な工法だと考えています。