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  • 執筆者の写真杉山信二

ピンポイント接着補強の特許査定



8月7日付でモルダム工法の新たな施工方法として特許出願を行っていたピンポイント接着補強が特許査定となりました。


この工法は目地の隙間がないような石積みでも接着補強することが可能な工法です。




例えば写真の様に目地の狭い石積みでも大きく動いてしまえばその目地の隙間から注入することは可能です。(赤丸部分は大きく動いた変状部分)




しかし、これまでは目地の隙間がない部分については大きな注入口を作る必要がありました。




これまでのピンポイントで接着していた方法は積石の角部を任意に斫ってそこから注入する方法です。




この方法でも問題なく接着補強できるのですが、景観が損なわれる可能性があります。

時間の経過とともに色は馴染んでくるので通常は問題ないのですが、例えば重要文化財など景観が重視されている石積みではこの方法は使用できません。




そこで開発されたのがピンポイント接着補強の改良タイプです。

注入口はハンドコアドリルにより最小限の注入口を作ります。




削孔径は20mmなので穴が開いているかどうか判らない程度の大きさです。




そして注入ホースも極めて細いホースを使用します。


ここで問題となるのが注入する材料です。





模型を使用して実験した例を基にご説明いたします。




グラウトやセメントミルクを使用すると注入口から注入された材料は下側方向へ流れようとします。

水分量や配合剤を変えてもその傾向は強く上部の空隙部分には充填されません。

つまり石積みの場合では合端部分から注入しても上側にある積石部分には充填されないため積石同士を接着することができないのです。


さらに加圧すると奥側にある裏込め石(透水層)に入り込むため排水機能が損なわれるだけでなく、施工中での加圧による崩壊も懸念されるでしょう。




次に細骨材の入ったモルタルを注入した例ですが、20㎜(内径16mm程度)の注入ホースからの充填が困難でした。


それはモルタルの特性でもあるのですが、管径を細くするとジャミング転移(ある程度マクロな大きさを持った粒子が多数集合した粉粒体又は粉粒体を含む二相混合流体、コロイド分散系、泡等の粒子状物質が多数集合した粒子径において粒子の密度(体積分率)の密度変化により流体的な振る舞いと個体的な振る舞いとが切り替わる現象)を起こして詰まってしまいます。


水分量や混和剤などを変えることで注入したのですが、やはりグラウトと同様に下側方向へ流れ落ちるような充填状況となっていることを確認できた頃合いに詰まってしまいました。


やはり細い注入ホースからの充填は困難です。




そしてモルダムエースの注入です。




注入口より注入されたモルダムエースはグラウトやモルタル同様に下側方向へ流れるのですが、その後は空洞となっている上側方向へ充填されて行きました。




さらに注入口を中心に風船が膨らむような広がり方で充填されて行きます。




注入時はジャミング転移によるホースでの詰まりもなく理想的な状態で充填することができました。


これは細骨材や主成分となる接合材、数種類の混和剤を調整して開発されたモルダムエースだから可能な充填形態です。


このモルダムエースを使用することで初めて可能となった方法が特許査定となったピンポイント接着補強となります。




判りやすく注入口を大きめの赤色表示しました。


この様に複数の注入口を作り、ここからモルダムエースを充填します。




充填された石積み内部のイメージです。


注入口より注入されたモルダムエースは風船のように充填されます。


大きな点付け溶接の様になるのですが、注入されていない目地部分は本来の石積みの特長である排水機能を確保した状態となるため、理想的な状態で接着補強することができます。




注入口は非常に小さい為、気付くこともないでしょう。






この写真は長野県で株式会社日興(石積み災害防止工法研究会の長野県支部長)がモルダム工法で施工された東急グループの貴重な建築物です。




その建築物の再建が新聞に掲載されたのですが、そのような美観を重視する建築物にも使用できる工法が誕生したと言えるでしょう。




ピンポイント接着補強を有するモルダム工法が日本の美しい石積みを守って行きます。

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